『昭和堂薬局』

WhatsNew

 

食事と加齢が腸内環境に影響する

 過去のコラムでも腸内細菌の重要性はお話しさせていただいておりました。テレビや雑誌などでも話題になっており、ご存知の方も多いかと思います。

 

 世界的にも腸内環境の研究は注目されており、腸内細菌叢は炎症性腸炎や大腸がん、過敏性腸症候群などの腸疾患にとどまらず、肥満や糖尿病、動脈硬化、腎疾患、喘息、アレルギー、精神疾患など様々な病気と関係していることがわかってきました。
人の腸内細菌は、生活環境や食生活などで日々変化します。腸内細菌叢は、指紋の様に人それぞれです。その中でも大きな変動要因となるのは食生活と加齢であると言われていますが、抗生物質の服用も多大な影響を与える要因になります。また、ストレス社会と呼ばれる現代においては、そのストレスも腸内細菌の変動要因になります。

 

 腸内細菌叢のバランスに影響を与える要因が数多く報告されている中で、特に影響すると思われるものが「食生活」です。一般的には高脂肪・高たんぱく質食が良くなく、高食物繊維・低脂肪で構成される伝統的な食事がいいとされています。これを裏付ける報告も多数存在します。

 

 最近は、日本でも肉類の摂取量は増加の一途をたどっており、腸内環境への影響が危惧されています。また、時間に追われる現代人は、手軽で簡単に食べられるものを選ぶ機会も多く、それが肥満やアレルギーの多い現代を象徴しているのかもしれません。

 

 ではどうすれば良いのでしょうか。
 肉食を摂取した際のヨーグルト摂取が腸内細菌叢にどのような影響を与えるかを調べた研究がありました。それによると肉食期間中からヨーグルトを摂取した人達は、肉食期間後ヨーグルトを摂取する又はヨーグルトを摂取しない人達に比べ、善玉菌の減少が抑えられ、炎症を誘導する菌の増殖を抑えることができたそうです。

 

 また、「加齢」による腸内細菌の変化も1970年代から言われていましたが、実際に詳しく調べることが出来るようになったのはつい最近です。そこで、健康な日本人の疫学調査では、高齢になると腸管のバリア機能を低下させ炎症を誘発する菌が増え、抗炎症に働く善玉菌の減少が認められました。また、年齢は70歳代後半と90歳前後で大きく変化していたそうです。

 

 これらのことからも、健康を維持することの一つに、腸内細菌叢のバランスを悪くしないことが挙げられます。上述したヨーグルトの研究も一つの方法でしょうが、東洋医学的な養生では、冷える行為はよくないとされています。特に年をとると尚更で、「年寄りの冷や水」という言葉があるくらいです。お腹を冷やさないで腸内細菌叢を維持できると理想的ですね。


昭和堂薬局 | 2017年5月18日

 

食欲とは…

 人はなぜ食べるのでしょう?その結果として太ってしまう人がいるのは何故でしょう?
  我々は、体を構成する原料としての栄養と生きるためのエネルギー源としての栄養を食べ物から得ています。
 そして、脳は体のエネルギー状態や個々の組織の代謝状態を常にモニターして状況に応じたエネルギー摂取と消費を制御しています。この食事の制御を「homeostatic(恒常的)」と呼び、またそれとは別に、恒常的食事を超えて食べてしまう事があります。このことを「hedonic(快楽的)」と呼んでいます。

 

 食欲は、脳の視床下部という所で調整されています。この調整は、末梢の脂肪組織や消化管などから出るホルモンや神経系の伝達で制御されています。通常はこれらの制御により摂食と代謝のバランスが取れていて、肥満が起こることはありません。しかし、上述した、快楽的な経路が別にあり、これが「報酬系」とも呼ばれ、性行動や摂食行動で起こる「快感」と関連していて、薬物依存や過食行動に関与しています。

 

 では、太ってしまった人の脳では何が起こっているのでしょうか?

 脳の中枢神経は、摂食やエネルギー代謝を調整するだけでなく、末梢組織の糖・脂質代謝を直接制御する事が明らかになりました。また、肥満すると末梢組織では炎症が起こることは以前からいわれていますが、脳の視床下部でも炎症が引き起こされている事が分かって来ました。動物実験では、高脂肪食を摂って肥満したマウスは視床下部で炎症が起こり、IKKβ/NF-κBという経路が活性化します。逆にその経路の活性を抑制すると高脂肪食の過食が改善しました。人でも炎症反応を示唆する反応が確認されています。

 

 肥満の人の行動特性としては?

 体の解析技術の進歩により、食べ物を食べると肥満の人の脳で何が起こっているのか分かって来ました。通常は、摂取した脂肪が報酬系を活性化し、満腹感を作り出すのですが、肥満の人では、通常量では充分な刺激にならず、満足感が得られない為に量が増えてしまうのです。

 

 では、健康な体を手に入れる為にはどうすれば良いのでしょうか?

 個々の状況に若干の違いがあると思いますが、先ずは食事の質を変える事です。量を減らすのではなく、高脂肪食を止める事と、体に炎症が有るので炎症を抑制する脂質を摂ることで炎症を起こす脂質とのバランスを整えます。栄養素のバランスも考慮しましょう。不足した栄養素を体が欲してしまうと食べたくなります。また、腸内環境も肥満に影響しますので食物繊維を積極的に摂りましょう。しかし、過度な便秘や基礎疾患がある方は注意が必要です。

 


昭和堂薬局 | 2017年4月29日

 

自己免疫疾患

 自己免疫疾患には、色々な疾患タイプがありますが、基本的には自己反応性T細胞(自分を攻撃してしまう免疫細胞)が中心的役割を担っています。私が数十年前に大学にて免疫学を学んでいた時には、胸腺で自己抗原高親和性T細胞(自分に強く反応してしまう免疫細胞)は除去されることになっていました。しかし現在の免疫学では、胸腺での自己抗原高親和性T細胞の除去は完全ではないことが解ってきました。また末梢でのチェック機構として、抑制性T細胞(免疫反応を抑制する免疫細胞)による自己反応性T細胞の不活化です。

 

 なぜ、これらのチェック機構をかいくぐって、自己反応性T細胞の活性化が起こるのでしょう?
通常、健常な方の体にも自己反応性T細胞が存在しています。しかし、健康な人たちの自己反応性T細胞の大部分は未活性T細胞として存在しているため、自己を攻撃しないのです。

 

 なぜ自己免疫疾患は起こってしまうんでしょうか?
何らかの影響で、未活性T細胞が活性化してしまうことが一番の原因です。

 

 どうして活性化してしまうのでしょうか?
何らかの遺伝的影響もあると思いますが、環境的原因としては体の中で炎症が起こったことで眠っていたはずの未活性T細胞が、その影響を受けて活性化してしまったことです。

 

 なぜ、炎症が起こったのか検証が必要ですが、食の乱れやストレスによって腸内細菌叢が変化しても炎症は起こります。また末梢の抑制性T細胞は、腸内細菌が作る短鎖脂肪酸(特に酪酸)の刺激により誘導されることが解ってきました。

 

 どんなことをするといいんでしょうか?
腸内細菌叢を良い方向に変えることができれば、炎症を抑えることができる可能性があることと短鎖脂肪酸酸性菌が増えれば抑制性T細胞の誘導もできる可能性があります。

 また、すでに起こってしまっている炎症を抑えていく可能性があるものとして炎症抑制性の脂質(ω3系脂質)を摂ることです。この脂質は、αリノレン酸で亜麻仁油、えごま油に含まれ、体の中で変化するとEPA・DHAになります。EPA・DHAは魚にも多く含まれる油です。

 

 この様な体を作ってしまった一つの原因(きっかけ)は食事です。食べるものの質、脂肪酸の摂り方など食事を見直していくことで体は変わります。炎症を痛みとして感じる関節リウマチの人は、食事を変えることで痛みが軽減します。
この機会に、自分の食生活を見直してみるのはいかがでしょうか。


昭和堂薬局 | 2017年4月14日

 

ちょっとしたことで、生活習慣予防を №2

 運動不足が、肥満や糖尿病の原因の一つであることは皆さんご存知のことだと思います。しかし、運動してもカロリー消費が増えてどんどん痩せられるわけではありません。人間は長い間飢餓の時代を生きてきました。獲物が摂れなければ次いつ食べられるかわからない生活をしていたため、カロリー消費を節約し、摂取した物は貯めておくことで生き延びてきたのです。


 人の消費カロリーを正確に測れるようになりました。このことで、今まで私たちが常識と思っていた、体を動かせば動かすほど消費カロリーは増えると思っていたことが事実でないことが判明しました。原始的な狩猟生活を送っているタンザニア北部のハッサ族の燃焼カロリーは男性1日約2600キロカロリー、女性1日約1900キロカロリーでした。これは通常都会で生活している成人と同じです(ただし、アメリカで「カウチポテト」と言われる極端に体を動かさない人たちは別にして)。運動でどんどんカロリーを消費し、体重が減ることはないのです。ハッサ族は狩猟でサバンナの原野を歩いているんですから…


 しかし、よく「運動しなさい」って言われるのはなぜでしょうか
 2009年にWHO(世界保健機構)が「死に至る危険因子」として高血圧、喫煙、高血糖についで「身体不活動」を4番目の原因と発表しました。「身体不活動」とは、一定の身体活動の目標値を満たしていないことです。(厚生労働省は詳しく目標を設定しています。)

 身体不活動は心疾患、脳血管疾患、癌、糖尿病など様々な病気のリスクになりますが、特に糖尿病と関連があります。身体活動は骨格筋の糖代謝に影響し、糖尿病のリスクが高まります。糖尿病になると骨格筋の糖取り込みが、健康の人と比べ35~40%減少しています。糖を代謝するためには、細胞内のミトコンドリアに糖を運ぶ必要があります。通常インスリンが作用して糖を取り込みますが、糖尿病はこのインスリンが上手く働かなくなって細胞に糖を取り込めなくなるのです。これとは別に、身体活動によって筋肉が収縮するとインスリンがなくても糖を取り込めるので糖をエネルギーに変えることができるのです。


 現代人は便利な物が多くあり、体を使わなくても生活ができます。しかし、飢餓の時代にできた人間のシステムは変わっていません。でも、楽しく運動出来て病気が予防できるのであればやってみてもいいですよね。


昭和堂薬局 | 2017年3月29日

 

ちょっとしたことで、生活習慣病予防を

 近年、腸内細菌解析技術の進歩により腸内細菌研究が盛んになました。その結果、腸内細菌叢の変化が代謝や栄養摂取、免疫機能に影響し、肥満や糖尿病などの代謝異常の直接的な原因となることがわかってきました。

 2006年に、腸内細菌叢の変化が肥満を起こすことが示されて以来、腸内細菌叢が肥満や糖尿病などの代謝性疾患と関係することが多くの研究報告で示されました。例としては、ヨーロッパや中国で行われた糖尿病疫学研究では、糖尿病患者の腸内細菌は、酪酸産生クロストリジウム属の割合が低く、非酪酸産生クロストリジウム属の割合が高いことが明らかになりました。

 また、インスリン抵抗性の原因となる細菌の特定が試みられ、インスリン抵抗性を示す人は血清中にリポ多糖と分枝アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)が上昇しており、それに伴って分枝アミノ酸合成酵素を含有する腸内細菌の分枝アミノ酸合成活性が亢進していました。さらに、動物実験ではありますが、高脂肪食と一緒に分枝アミノ酸合成酵素を有する腸内細菌を投与すると、血清分枝アミノ酸の上昇と共にインスリン抵抗性の誘導、耐糖能の悪化が現れました。

 このことは、腸内細菌叢のバランス異常により誘導された変化が、糖尿病発症と密接な関係があることを示しています。一方で、高繊維食・低脂肪食摂取で、糖代謝が改善し、同時に分枝アミノ酸合成酵素を有する菌が減少していました。

 以上のことから、腸内細菌叢のバランスを保つことが、肥満や糖尿病の予防になることはおわかりいただけると思います。食事の改善や腸内環境を良くするような健康食品などを利用するといいかと思います。

 

 この他、腸内細菌叢と肥満・糖尿病関連はいろいろなことがわかってきていますが、難しい話となってきますので、今回はここまでにさせていただきます。


昭和堂薬局 | 2017年3月11日

 

東洋医学的認知症とは

数年前、認知症の漢方として抑肝散がブームになりました。しかし、この処方は認知症の周辺症状である攻撃性を改善する漢方薬です。中核症状を改善するものではありません。また、西洋医学の薬もまだ症状を緩和するものがあるだけです。漢方を使っても治すのはなかなか難しいかもしれませんが、少しでも進行を遅らせたり出来ればと思い、中医学的に認知症をどう見ていくかお話していきたいと思います。

中医学では脳の定義を教科書的には、はっきりと言っていませんが、おおよそ2千年前の「黄帝内経」という書物に脳という言葉は出てきます。
「腎は骨を主り、髄を生じ、脳に通ず」という言葉から、脳は腎の支配下にあります。しかし、これは脳という物質は腎の支配下にありということで、脳が行っている「思考活動」に関しては、「心は神を主る」ことから、脳の機能は心の支配下にあります。

認知症の主な症状は、「物忘れ」です。「物忘れ」は心の症状ですが、老化によって起こることや脳の萎縮があることを考えると、腎の衰えです。また、認知症が出てしまったのは腎と心が交流できなくなって起こったと解釈もできます。

ここまで、認知症の「物忘れ」を中心にお話してきましたが、この考え方に基づいていくと、認知症の周辺症状も同時に対応できます。例えば、不安や不眠、被害妄想などは心の症状ですし、暴力や暴言などは腎の衰えが肝に及んで起こっていることです。

認知症は、脳のどの部分が機能しなくなったかで多彩な症状が出ます。しかし、一般的に言われている「中核症状」や「周辺症状」は心と腎から治療をしていきます。

今回は、人それぞれ体質などを考慮し、処方を選んでいくため漢方薬名は多岐にわたるので割愛します。 詳しくは店頭にてお問い合わせください。


昭和堂薬局 | 2017年3月1日

 

最近、物忘れが多くなっていませんか?

 最近、物忘れが多くなってきたと気にする方がいらっしゃると思います。しかし本人が気にしているうちは“認知症”の心配は少ないと思われます。“認知症”になると忘れてしまっていることを覚えていないからです。

“認知症”とは「生後いったん正常に発達した種々の精神機能が慢性的に消退、消失することで、日常生活や社会生活を営めない状態」をいいます。(難しい表現ですが、知的障害とは異なるということです。)
脳では、ニューロン(神経)が死んでしまったり、働きが悪くなったりしたために記憶力だけでなく、思考力や行動力までもが失われ、日常生活や活動を妨げる程度までなる状態を指します。

 

 現在、認知症の方は急増しているようです。厚生労働省の統計によると1985年に59万人だった日本の認知症患者数は2015年には500万人を超し、2025年には700万人にも達すると言われています。
これは日本だけの問題ではなく全世界的に多くなっており2050年には1億人をはるかに超えると予想されています。

 

 認知症というとアルツハイマー病が有名ですが、その次に多いのが脳血管障害型です。その他にレビー小体型認知症やクロイツフエルト・ヤコブ病などがあります。
そのような中、認知症、特にアルツハイマー病については多くの研究者によってその研究が為されていますが、症状の緩和を図る薬はあるのですが、まだ治す薬がないのが現状です。

 

 今のところ認知症になってしまうと特効薬が存在していないのが現状です。このことから予防することが重要と言えるでしょう。
その予防には食事と運動が良いとされています。運動はジョギングや水泳などの有酸素運動を行うと、脳血流が増えニューロンの成長や増殖を促す物質が分泌されたり、免疫機能が高くなったりして、予防によいと言われています。またバランスのいい食事も認知症予防につながります。特に魚に含まれるω3系の不飽和脂肪酸は血栓予防、抗炎症、降圧、インスリン感受性への作用など多くを有しているので、魚の摂取は積極的にしたいものです。(どうしても食事からの摂取は難しいという方はEPA、DHAのサプリメントもあります)

 

 認知症は発症の10~20年前から始まっていると言われています。なってから慌てるのではなく、早くから予防したいものです。予防のためのキーワードは脳血流と抗炎症です。


昭和堂薬局 | 2017年2月22日

 

ヤセ菌とデブ菌

「年末年始のイベントなどで食べ過ぎて太っちゃったけど痩せられない」という人が多いのではないでしょうか

最近の研究で、腸内細菌叢の変化が宿主である私達のエネルギー調節や栄養の摂取、免疫機能等に影響し、肥満や糖尿病などの代謝異常と密接な関係があることが明らかになってきました。(以前もコラムでお話ししていますが…)

皆さんご存知のように、過度の食事が肥満へとつながります。そして、体の見えない部分では、腸内細菌叢が変化していたのです。その変化が更に太りやすくしているのです。

健康番組などでも紹介されているので、ご存知の方は多いと思いますが、「デブ菌」はファーミキューテス(Firmicuties)門に属する菌です。「ヤセ菌」はバクテロイデス(Bacteroides)門です。ファーミキューテス門には200近い属がありますので、菌の種類は莫大な数にもぼるので、どの辺の菌が肥満に関係しているのかはわかっていませんが、ファーミキューテス門の菌が太ると増え、痩せると減ることは事実です。

一般的に腸内環境をよくするには、「ヨーグルトを毎日食べよう」と健康番組などでは言われています。でも、ヨーグルトに含まれる菌の中に以外に、ファーミキューテス門に属する菌があるんですよ。これらの菌が我々の腸の中で肥満の加勢をしているかはわかりませんが…

また、ヨーグルトは体を冷やしますから、冷え性で代謝が落ちている人には、益々太る方向に行ってします可能性もあります。

日本人には、麹菌や酵母菌、納豆菌などの昔ながらに日本人が摂ってきた菌が、体に合っているのかもしれません。

体にいいと思って毎日食べていたものが、もしかしたら逆効果?
意外な落とし穴に要注意ですね。


昭和堂薬局 | 2017年2月3日

 

やすらぎ通信平成29年正月号が出来ました

 2年半にわたりやすらぎ通信のコラムを担当してきましたが今回が最終回です。

ご拝読いただきありがとうございました。

 これまでは養生法を中心にお話してきました。前回は東洋医学の“ものさし”である陰陽や五行学説のまとめをお話ししたので、今回は四季の養生法の考え方をもう一度お話して最後とさせていただきます。

 

先人の知恵

 人間もだんだんと年を重ねていくと陽であるエネルギーが不足し始めます。現代は冷房や冷蔵庫が普及し、一年中冷たい物を食べたり飲んだりすることができます。冷たい物を摂り過ぎると陽気が損傷してしまいます。「年寄りの冷や水」という諺があるように、だんだんと年を重ねていくと冷えるような行為は慎まなければいけないのです。日本には四季があり、四季折々の食べ物があります。その食べ物は温めたり冷やしたりする性質があります。簡単に分けると暖かい季節にとれたものは冷やす性質があり、寒い季節にとれたものは温める性質があります。しかし、現代の食料品店の店頭では季節が感じられなくなり冬でも夏野菜が並びますし、レストランのサラダにはいつでもトマトやキュウリが入っています。これは、陰陽のバランスとしては違和感があります。

 また食べ物だけではなく飲み物にも食性はあります。欧米で愛飲され、最近は日本の方もよく飲むようになった苦味のコーヒーは、摂りすぎると胃腸を冷やします。それを防ぐために甘味の砂糖やはちみつ、ミルクと共に、辛味のシナモンを添えたりします。また、日本でも苦味の抹茶をいただくときは、先に甘味のお菓子を先に食べる作法があります。抹茶は緑茶の中でも特に冷やす性質が強いため、甘味で胃腸を保護してから抹茶を頂くのです。一方、緑茶を全醗酵して作られる紅茶は、体を温める飲み物です。元は同じでも醗酵により性質が変わるのです。

 

~春は生じ 夏は長じ 秋は収し 冬は蔵する~  

 東洋医学では四季をこのように捉え、それぞれの特徴にあった養生法を考えます。中国伝統医学の古典の一つである「黄帝内(こうていだい)経(けい)」『素(そ)問(もん)・四(し)気調(きちょう)神(しん)大論(だいろん)』では、次のように書かれています。

「四時陰陽の変化は万物の生長収蔵の根本である。そこで聖人は春と夏には陽気を養い、秋と冬には陰気を養って、この根本に順うのである。こうして聖人は、万物と同様に、生長発育の正常なリズムを充分保てるのである。仮りにこれに反してしまうと、生命の根本が傷つき伐られて、真気もまた損なわれ壊えてしまう。そこで陰陽四時の変化というものは、万物の生長、衰老死亡の根本だというのである。これに反すると災害をまねき、これに順えば疾病も生じない。これがつまり養生法をわきまえるということである。養生法については、聖人は着実にこれを行うが、愚か者はかえってこれに背いてしまう。」

 日本においても、基本的にはこのように考えていました。四季の変化に応じて食べ物は成長し実りあるときを迎えます。その四季折々の食べ物が旬の食材です。食べ物は季節と切り離せないものであり、昔の人たちは春夏秋冬それぞれの季節に合わせて生み出される自然の恵みを巧みに取り入れてきました。栄養をたっぷり含んだ旬の恵みを取り入れることにより、その季節を乗り切る力を得ていたのです。

 

 これまで、季節の起こりやすい症状や養生法をお話してきました。春は苦みの山菜に、夏は水分たっぷりの野菜、秋は肺を潤す果物、冬は体を温める根菜とそれぞれの季節に摂りたい食材があります。しかし、食養生は、それだけ摂っていればいいわけではありません。五味(酸味、苦味、甘味、辛味、鹹味(塩辛い))をバランスよく摂ることが大切です。そのバランスが優れているのが、日本の伝統食です。一つの汁物と一つの主菜、二つの副菜の「一汁三菜」で、五味のバランスが摂れるようになっているのです。それらの食材は、季節ごとに変化し、その季節にとれた旬の食材で飾られます。

 

春は、苦味のふきのとうや菜の花・山うど・たけのこなどをはじめ、魚介類では、わかめ・赤貝・はまぐり・あさり・真鯛などが旬になります。

夏は、水分をたっぷり含んだキュウリやトマト・スイカに酸味の梅の実やすもも・トウモロコシや枝豆、魚介類ではうなぎにきす・タコ・かんぱち・はもなどが旬を迎えます。

秋は、梨・ぶどう・イチジク・柿が喉を潤します。大根・なす・しょうが・栗・さといも・さつまいも・しめじ・シイタケ・松茸などの野山の幸に、さんま・いわし・秋さば・さわら・鮭・毛ガニなども旬を迎え、食欲の秋の食卓を彩ります。

冬は、ゆず・レモン・みかん・きんかん・リンゴなどの果実、海老芋・くわい・かぶ・ニンジン・三つ葉など温性の野菜や、ぶり・まぐろ・むつ・ふぐ・あんこう・たら・金目鯛などが寒さを吹き飛ばします。

 

こうして「一汁三菜」の中に旬の食材が盛り込まれ、季節の恵みを感じ食卓を彩り健康的で豊かな食事になっていくのです。

 

○屠蘇(とそ)の起因

 最近は、お正月に屠蘇散を飲む方も少なくなってきましたが、一年の邪気を払い長寿を願った飲む日本の伝統行事です。

 昔嵯峨天皇の御代弘仁年間に唐の博士蘇明という人が和唐使として来朝の折り絹の袋に入れた屠蘇散と称する霊薬を献上されました。天皇は元旦より三ケ日清涼殿の本廂に出所されて四方拝の御儀式の後御酒に御屠蘇を浸して用いられたのが始まりとされております。その後、国民もこれに倣って正月三ケ日の儀式として屠蘇を用いる様になり、一年の邪疾病魔を除き、幸福の年を迎えるものとしてお正月には家毎に必ず屠蘇酒を戴き一家揃って新年のお祝いを致しました。屠蘇とは、邪気を屠(ほふ)り、魂を蘇(よみがえ)らせることから名付けられました。

 

 


昭和堂薬局 | 2017年1月18日

 

やすらぎ通信平成28年秋彼岸号

 2年間、計8回にわたり「やすらぎ通信」のコラムを書いてきました。そこで、東洋医学での“ものさし”である陰陽や季節の養生法を通じ五蔵(五行学説)についてお話をしてきました。 

 今回は、それら『東洋医学の“ものさし”において、健康とは?』と『先人がどうして養生が重要だと語っているのか』をお話していきたいと思います。 

 

  東洋医学的健康とは 

 一般的に健康とはどんな状態の事をいうのでしょうか?お医者さんで検査してもらって異常がなければ健康なのでしょうか? 例えば冷えがあり、つらくてしょうがない人が検査をして異常がなければ西洋医学では何もできません。しかし、その人はつらいのです。これではその人は、健康とは言えないでしょう。 

 

 東洋医学が考える健康とは、臓腑などの体のシステムの働きが正常で、そのシステム全体のバランスが取れている状態です。そして、このバランスは季節などの外界の環境とのバランスも含まれます。また、体だけではなく心も含めてバランスが取れている状態が「健康」なのです。例えば冷えですが、冬に体を冷やすアイスクリームを食べていると寒邪が体に入ってきて冷えが発生します。あるいは、胃腸が弱く上手く食べ物を消化ができず、そこからエネルギーが作れずに冷えが発生しているかもしれません。 前者は陰陽のバランス、後者は臓腑のバランスが悪くなっていて健康とは言えません。 

 

 陰陽の“ものさし”とは 

 第1回目でお話しした「陰陽」です。東洋医学では世の中のすべてのものを「陰」と「陽」に分けています。天は「陽」、地は「陰」、夏は「陽」、冬は「陰」という具合です。そしてこの比較は相手がいて初めて成り立ちます。例えば、陰の季節の冬の昼は、冬の夜に対して「陽」なのです。このように変化をしながらバランスを保っています。 では、体の働きとしての陰陽を見てみると、基本的には「物質=陰」「機能=陽」と捉えます。物質とは簡単に言うと「血」「水(津液)」です。また、機能は「気」というエネルギーです。私たちの体の働きは、これらの物質と機能(陰と陽)のバランスが保たれていることが必要なのです。 

 

 現代は暑く陽気が盛んな夏に、クーラーで冷やされる事で冷えが発生します。これは暑い時期は汗腺を開けて発汗して体の熱を逃がそうとしているのに、クーラーで過剰に冷やされると寒邪が入りやすくなるからなのです。冬に寒邪が入りにくいのは汗腺を締めて、体が冬に備えているからなのです。 クーラーを例にしましたが、食べ物にも言えることです。夏が旬の食べ物は体を冷やすようになっているのに、今は1年通して食べることができます。冬に夏の食べ物ばかりを食べてしまうと体が冷えてしまいます。自然界は上手くできているのに、あまり不自然なことをするとバランスが崩れてしまうのです。 

 

 五行学説としてのバランス 

 東洋医学は陰陽の他に、世界を5つの物から出来ていると考えました。

 この5つの物は「木・火・土・金・水」です。季節の養生で少しお話していますが、木は、火は、土は長夏(梅雨)、金は、水はです。この五蔵は、木は、火は、土は、金は、水はです。その他、味()や志()なども5つに分けられます。そして、これらのバランスが崩れると健康ではなくなってしますのです。 

 

 では、この5つの物はどのように成り立っているのでしょうか。 

 五行の間には、「お互いに依存する関係(相生(そうせい)関係)」と「お互いに抑える関係(相克(そうこく)関係)」があります。五行学説はこの2つの関係がバランスをとることでうまく成り立っています。 相生関係は、「木は火を生む」「火は土を生む」「土は金を生む」「金は水を生む」「水は木を生む」という母と子の関係になっています。相克関係は、「木は土を抑える」「土は水を抑える」「水は火を抑える」「火は金を抑える」「金は木を抑える」という関係になっています。

 

 これらの「依存する関係」「お互いに抑える関係」のバランスが取れているとうまくまわっていくのです。ちょっとわかりにくいかもしれませんので例えると、ストレスがあると(ストレスは肝に影響する)心に影響して不眠や不安などが起こります。これは肝と心の相生関係がうまくいかなくなって起こる現象です。また、ストレスがあると人によっては胃腸の調子が悪くなります。これは、肝が脾(胃腸)を抑え(相克)すぎてしまうことで起こる現象なのです。 

 また、日本は四季があり季節が移り替わります。季節も5つ分けられました。そして其々にその季節の性質があり、それに反することをすると我々の体に影響を及ぼして体調が悪くなります。それを防ぐことが養生法なのです。 

 

 健康で元気に楽しく人生を送ることは、誰もが望んでいることです。先人もそう考え、養生の教えを伝えています。日本の伝統的な食べ物も理にかなった組み合わせになっています。「一汁三菜」という言葉がありますが、これが日本の食卓の基本でした。ご飯に味噌汁(一汁)、主菜(焼き魚など)ひとつに副菜(煮物や酢の物)ふたつ(三菜)、これに漬物、季節の果物が添えられます。ごはんで炭水化物、汁物でミネラル・水分、焼き魚などでたんぱく質・脂質、副菜で食物繊維やビタミン・ミネラル、漬物でお腹に必要な菌が摂れます。理想的ですよね。では、今の食卓はどうでしょう? また、食べ物にも陰陽、五味があります。黄帝内経に「五味は口から胃に入り、五臓の気を養う」と言っています。このように五味は五臓と密接な関係しています。

 人は精という生命エネルギーを持っています。この精は親から受け継いだ先天の精と食べ物などから得た後天の精があり、後天の精を食べ物から得られないと精は消耗してしまうのです。

 私たちが食べている伝統的な「一汁三菜」の食事は、先人が教える五味がそろっています。甘味のご飯、鹹味の味噌汁、甘味または鹹味の魚や肉、そこに添えられる辛味の薬味、酸味の酢の物、甘味と苦味の三菜や野菜の煮物などと五味の調和がとれ、五臓の気を養っているのです。


昭和堂薬局 | 2016年9月29日


横浜ポルタ内にある漢方薬局。あなたの健康な体を取り戻すお手伝いを致します。