日野に在る善光寺さんの「やすらぎ通信」のコラムを担当したので、その内容を紹介します。
この2年ほどコロナ禍の影響で思うような生活ができずに我慢を強いられてきました。日本の感染者はだいぶ減っていますが、世界に目を向けるとまだまだ収束に向かっているとは思えません。この2年間で我々は、健康でいることの大切さを学んだのではないでしょうか。健康な生活を送るために東洋医学では、人は自然の中で生活し、四季を感じ、四季折々の食べ物を摂り、季節に応じた服装で生活し、その風土にあった暮らしをしていく事の大切さを説きます。
またこの東洋医学では身体の状態を判断する場合「望診・聞診・問診・切診」という4つの診断方法で診断していきます。診断法と言えば血液検査やMRIなど西洋医学の診断方法を思い浮かべますよね。しかし、東洋医学では、いろいろな物や体の各器官などを五行に配当しています。そして、体表面の変化から内なる蔵の病変を知り、また、内なる蔵の変化もまた体表に現れると考えています。その理論に基づき、東洋医学は特別の機械を使わずに顔や皮膚の色、声、臭い、舌の状態や脈などと、問診で診断をしていきます。体の中の不調は、何らかの形で体の表面に現れてくるものです。これらの見えることや聞こえること(声や体の音)、臭いなどを注意深く分析し、最終的に問診により状況を判断して治療法を決定します。(弁証論治と言います。)
以下表面上に現れるものを記してみます。
顔色
人によって、元々の顔色が違いますので、初めてお会いする方の顔色を見て判断はできませんが、その人がどのような状態かはある程度予測できます。しかし、天候や昼夜、季節によっても顔色は変化しますので、このことを考慮しなくてはいけません。
① 顔色が青い場合:冷えたり、痛んだり、血行が悪かったりしている状態です。(すごく寒いところにいたり、骨折をしたりしてものすごく痛いとき顔が青白くなりますよね。)
② 顔色が赤い場合:全体に赤い場合は「実熱」で熱が過剰の状態です。頬が赤いような場合は「虚熱」で「陰」の不足の状態です。
③ 顔色が黄色っぽい場合:基本的に胃腸の調子がよくない状態です。このケースは、淡い黄色で「萎黄(いおう)」と言います。(「黄疸」との違いです。)
④ 顔色が白い場合:「気」や「血」が抜けた状態です。(大量に出血すると、顔が白くなる状態です。)
⑤ 顔色が黒い場合:「腎」が悪い状態です。(透析患者さんは顔が黒くなりますよね。)
顔色についてはこんな感じですが、これに関しては皆さん何となく日ごろから家族や友人などの顔色を見ているとご理解いただけると思います。
目
目は五臓の「肝」と関係しています。
「五臓六腑の精は、みな上行して目に注がれ、目はそれを受け取り、正常な視覚を持つ」という「黄帝内経霊枢」の条文があるくらい身体の状態を判断する大切な器官です。
白目が赤い場合は、「肝」の熱、黄色い場合は「湿熱」です。目頭が白っぽい場合は「血」の不足です。
また、「肝」は筋肉や爪とも関係していて、筋肉は血の栄養を必要としていて、肝血を得て潤いや柔軟性を保てているのです。肝血が不足すると四肢がしびれ、震えやつりなどが起こります。爪も筋肉と同じで、血の栄養が必要です。肝血が不足すると爪が薄くなり、艶が失われ、ひどくなると変形したり割れたりしてきます。
舌
舌は「心」と関係する器官です。
舌の色艶はよく、柔軟で動きもよい状態は健康的な舌です。心は血脈を主っていますので、血脈の状態が舌に現れます。全身の状態が現れる器官でもあり舌診という診断方法があります。ここでお話しすると細かすぎてしまうので簡単に心の状態だけでお話しすると、心血が不足すると舌は白っぽくなります。心に熱があると舌の先が赤くなります。また、血の流れが悪いと舌の色は紫がかった色になり舌の表面に赤い斑点ができます。
耳
耳は「腎」と関係が深い器官です。
耳が厚く光沢のある、「福耳」と言われるような耳は健康的な耳です。逆に薄くて乾燥していると「腎陰」の不足と考えます。耳が白いと「風寒」、黒い時は、腎の「水」が不足した状態です。耳垢が白くて多い場合は「寒」、耳から膿が出ていて色がついて匂いがある場合は「湿熱」などの「熱」の状態です。
また、「腎」は骨とも関係が深いです。骨を養う髄は、腎精から生まれると中医学では考えます。腎精が不足すると骨が弱くなり骨折しやすくなります。
更に、「腎」は髪とも関係しています。中医学では、髪は「血のあまり」だと考え、腎精は血を生み出す働きがあるので、腎精や血が不足すると、髪に艶がなくなり、乾燥して薄くなります。若白髪も腎精不足です。
鼻
鼻は「肺」と関係する器官です。
肺が呼吸するとき、鼻は重要な通り道です。鼻の通りもよく、においもしっかり感じられれば、鼻は正常な状態です。また、鼻のほかに「のど」も肺につながっています。のどの主な働きに「声を出す」がありますが、声が正常に出ることも肺が正常に働いていることなのです。
唇
唇は「脾」と関係する器官です。
「脾」は消化などを担う臓です。よって胃腸系の状態が唇に現れます。健康な唇の色は、紅く潤いがあります。唇の色が淡い場合は、冷えや気血の不足です。また、濃い紅色は、熱と捉えます。紫色は、気血の流れが悪くなった状態で、「気滞血瘀」と捉えます。唇が渇いた状態は、「津液」という体に必要な水が不足した状態です。
口内炎は、「胃熱」の場合が多いです。口内炎の色が全体に白っぽい場合、気の不足も考えられます。
皆さまは専門家になるわけではないので詳しく覚えなくてもよいですが、「養生の知恵」として知っていると自分や家族の不調がどんな状況なのか、どんな養生をしたらよいかが、少しわかってくると思います。それこそが、「未病を治す」なのです。