日野にある横浜成寿山善光寺さんの「やすらぎ通信」のコラムを担当したので、内容をご案内いたします。
2年ぶりに「やすらぎ通信」でコラムを担当することになりました。 以前やすらぎ通信で四季の養生法を中心にお話しました。今回は東洋医学的にどうして病気になっていくのか。また、養生の基本的考え方をお話しします。
2千年前の書籍に「黄帝内経(こうていだいけい)」というものがあります。この書籍は、東洋医学最古の医学書と言われていて、東洋医学の基礎がここに書かれています。2千年前に書かれたことが、現代に受け継がれ、いまだに利用されていることに驚かされます。現代の日本では、西洋医学が最も身近な医学になっているので、東洋医学の考え方はわかりにくいかもしれませんが、2千年もの間、色褪せることなく連綿と受け継がれてきた東洋医学の「知恵」こそ、現代社会に必要な事なのだと私は思っています。人間の体は、基本的に「24時間眠らない社会」に対応できるようにはなっていないのですから…
黄帝内経生気通天論(せいきつうてんろん)には次のように書かれています。
「昔から、人の生命活動と自然環境には、極めて親密に相い通じる関係があり、生命の根本は陰陽(いんよう)にもとづくと考えられている。おおよそ天地間、四方上下の内にあるものは、人の九竅(きゅうきょう)、五臓(ごぞう)、十二関節を問わず、すべて天の気と通じているのである。天の陰陽(いんよう)は変化して地の五行(ごぎょう)を生み、地の五行もまた天の三(さん)陰(いん)三(さん)陽(よう)に応じている。もし人がこのような天・地・人相応の法則に常に反していると、邪気(じゃき)が人体を損なうことになる。」
このことは、人間は自然界からかけ離れた生活をすることはできないこと、人間と自然界との関係は非常に密接なものであることを述べています。
現代社会においても、我々は自然、四季の中で生活しています。しかし、冷暖房などで夏冬の気温の差がそれほどない環境で生活しています。夏の屋外は暑く、室内は冷房で涼しくなっています。この冷房の影響を受けて夏に体が冷えてしまう方が多くいらっしゃいます。また、冷蔵庫の普及で一年中冷たい食べ物や飲み物が摂れてしまうことも冷えにつながります。
食べ物は季節感がなくなり、スーパーなどでは四季を感じにくくなっています。今はどんなものでも一年中手に入りますから、便利といえば便利なのですが…。本来、食べ物にも温める食べ物、どちらにも傾いていない物、冷やす食べ物があるのです。このバランスを欠いてしまうと体の陰陽のバランスも崩れてしまいます。基本的に夏に寒く感じるほど冷房をきかせるたり、冬に汗をかくほど暖房をきかせてしまうと体調を崩しやすくなりますし、外(がい)邪(じゃ)の影響を受けやすくなります。夏は汗腺(かんせん)を開いて汗をかくことによって体の熱を発散していますし、冬は汗腺を閉じて体の熱を奪われないようにしているのです。
このように、季節によって食生活や生活習慣を変えていくことで、陰陽のバランスが取れて健康を保つことができます。次に、陰陽について簡単にご説明します。
○陰陽(いんよう)
東洋医学では、自然界すべての物を陰陽に分けます。太陽は陽、月は陰、昼は陽、夜は陰、男性は陽、女性は陰といった具合です。何となく感覚的には、陰は暗い、冷たいというイメージです。陽は明るい、温かいというイメージです。体の働きから陰陽をみると、物質=陰、機能(エネルギー)=陽です。陰陽をきちんととらえようとすると複雑になるので、こんな感じでイメージしていただくと良いと思います。この陰陽のバランスが崩れると病気になります。では、陰陽のバランスの崩れとはどんなものかといいますと、何らかの原因で、陰陽の「どちらかが強くなっている」または「どちらかが弱まっている」状態です。実際の病気はもう少し複雑な場合が多いのですが…。
東洋医学では、食べ物や薬を「四気五味」という性質と味で分けます。性質は「寒・涼・熱・温」の4つがあります。これを四気といいます。そして五味とは「辛(しん)・甘(かん)・酸(さん)・苦(く)・鹹(かん)(しおからい)」です。そして、「四気五味」が組み合わさっていろいろな性質の食べ物があります。例えば、甘くて冷やすものには、きゅうり・トマト・茄子・西瓜などがあります。このように食べ物にはいろいろな性質があり、伝統的な食べ方は、このバランスを利用して健康的な食生活が遅れるようになっているのです。
黄帝内経生気通天論には、五行説に基づいて五味のバランスについて次のように書かれています。 「陰精が生み出される源は飲食の五味にあります。しかし精を収蔵する五臓は、逆にまた飲食の五味の超過によって損傷もします。 酸味(すっぱい)のものを多食すると、肝気が大いに盛んになり脾気は衰渇するのです。 鹹味(しおからい)のものを多食すると、大骨損なわれ肌肉は萎縮し心気は抑鬱します。 甘味(あまい)のものを多食すると、心気煩悶し安定せず顔は黒ずみ、腎気は平衡がとれない。苦味(にがい)のものを多食すると、脾気は潤沢でなくなり消化は悪く胃部は膨満します。 辛味(からい)のものを多食すると、筋脈は傷れ弛み精神も同時に損なわれます。 このようなわけですから飲食の五味の調和に注意すれば、骨格はゆがまず、筋脈は柔軟で調和し、気血は流通し、腠(そう)理(り)は緻密(ちみつ)でしっかりとし、骨気は剛強となります。人は養生法則を慎んで厳しく守れば天与の寿命を享受することができるのです。」 以前書かせていただいた「四季の養生法」は、この五行説にのっとった季節の五味についてのお話でした。日本には四季折々の旬の食べ物があり、その食べ物には「四気五味」に分類され、そのことに基づいて食生活を送っていくことで体のバランスが良くなっていくのです。
今回は、基本的な東洋医学の養生の考え方でしたが、次回(やすらぎ通信の次回号は6月ごろを予定しています)からは、体質別の養生についてお話します。