中医婦人科から見ると、女性の月経・妊娠・出産は、臓腑・経絡・気血・天癸(てんき)が子宮に作用して成立するものです。これらの子宮の機能は女性の生理的な特徴であり、男性と異なっている点であります。
子宮は「奇恒の腑」であり「女子胞」「胞宮」ともいわれ、月経を導き、受胎と妊娠をつかさどる器官です。天癸とは腎から生じる人体の成長・発育・生殖を促す物質であり、気血は月経・妊娠・授乳の物質的基礎です。また臓腑は気血を生成する源であり、経絡は臓腑間のつながりをつかさどり、気血をめぐらせる通路です。したがって女性の生理は、臓腑・経絡・気血を基礎に置いて、臓腑・経絡・気血・天癸と胞宮との全体的な関係を理解しなければなりません。特に腎・肝・脾胃および衝任二脈が、女性の生理機能の営みにおいて重要な役割を果たしています。
※「奇恒の腑」…骨・髓・脳・脈・胆・女子胞のことを指します。「奇恒」とは「普通とは異なる」という意味であり、これらは腑でありながら臓に似た性質を持っています。
「臓」とは気血などを生み出し、貯蔵する存在です。「臓」という漢字のつくりが“蔵”になっているのは貯蔵する意味があるためです。
一方の腑は飲食物を消化・吸収・排泄するための器官であり、通常は中空の袋状の器官です。奇恒の腑はこのような通常の腑から考える「常識」から外れた存在であるため、このように呼ばれます。
婦人科における腎
腎は先天の本であると同時に元気の根であり、精を貯蔵し、人体の成長・発育・生殖の根本を為すものです。また、精は血に変化する源であり、月経や妊娠の物質的基礎です。女子は第2次成長期に入ると腎気が盛んになり,天癸が成熟するのを待って子宮が初めて機能するようになり、月経が始まり、生殖が可能となります。
婦人科における肝
肝は血を貯蔵し、疏泄をつかさどり、血海(衝脈、血の貯蔵場所)を制御する働きがありますが、その血の貯蔵および血量の調節機能は、子宮の生理機能に重要な影響を及ぼしています。
婦人科における脾
脾は運化(消化・吸収)をつかさどり、気血を生成する源であるため、後天の本といわれています。同時に脾は血を体外に漏らさぬよう統率する働きがあります。すなわち脾が生成し統率する血が、直接子宮の月経・妊娠の機能に物質的基礎として作用しています。
天癸は、先天の精である腎精より生じ、腎に貯蔵して後天の水穀精微(食べ物などから得られる体にとって必要なもの)によって滋養されています。人体は一定の時期になると、腎気が旺盛になり、腎中の真陰が絶えず充実して天癸が次第に成熟します。天癸は腎中に生じ、人体の成長・発育・生殖を促進する物質の一種です。天癸は子宮と密接な関係にあり、子宮の生理機能を促進し成就させるばかりでなく、月経や妊娠を正常に維持する重要な物質でもあるのです。
このように、婦人科疾患に関係する臓腑は主に腎・肝・脾であることがお分かりいただいたと思います。このことを踏まえ、お悩みの症状を全身の機能調節によって改善していくことを目標に漢方薬を選んでいくことが中医学です。
若い女性においては、機能性月経困難症、月経前症候群(PMS)、産後の体調不良、肌荒れ、便秘、頭痛、冷え症などがよく見られ、中年以後では更年期症状、自律神経失調症などの不定愁訴がよく店頭にお見えになります。これらがどうして起こっているのかを中医学的に解釈し、改善方法を検討していくのです。
この考えに基かないで漢方薬を服用しているケースをよく目にします。処方薬やドラッグストアで選ぶのではなく、東洋医学の知識のある漢方薬局や漢方医に選んでもらいましょう。